ドロン無しのリアリズム 映画「忍びの者」

たまには忍者映画のことでも書いてみよう、そう思ったら頭に浮かんで来たのは映画「忍びの者」でござった。

この「忍びの者」は同名小説(作:村山知義)が原作で、1962年公開の作品。「白い巨塔」などでも知られる山本薩夫監督による映画でござる。

忍者映画といえば、やっぱりドロン!とガマに変身とか、手裏剣がバンバン飛ぶようなシーンが満載、と思うだろう。

が、この「忍びのもの」には一切そんなシーンはない。

大映の作品だったから勝手にガメラ・大魔神のような何かが出るのを期待したけど、もちろんそんなものもでてこない。

しかもチャンバラ的な殺陣もなく、リアリズムを追求した内容となっている。

 

舞台は伊賀の百地と藤林で、天正伊賀の乱の直前。

主人公は市川雷蔵が演じる腕利きの下忍(低い身分の忍者)、石川五右衛門。

石川五右衛門は例の釜茹でになった五右衛門でござるよ。

ちなみに第一作では死刑になるところまでは触れていないでござる。

五右衛門は実在し、有名な伊賀の上忍・百地三太夫と確執があったという説があるが、そこから創作した話と思われる。

 

下忍の忍者が地元で稲作をしている描写や、各地の大名に金で雇われるなどの台詞があり、設定としては、かなりリアリティがある。密教・山伏がルーツにあることにも触れている。

また派手なアクションがないが、かえって地味な殺陣がリアルティを感じさせ、火薬で爆発で飛んだ腕の描写などの残虐なシーンも生々しい。決して子供向けではないでござる。

ストーリーは、伊賀と織田信長の戦いの中で、伊賀の権力者に翻弄される下忍の話なんだけど、権力者が下忍たちを支配するためのカラクリ(これもある説がベースになっている)なども凝っていて、リアリティを追いながらも面白い内容でござるよ。

優れた技量をもっていたとしても下忍という身分では、支配側にいいように使われてしまうという、忍者の悲哀とそんな支配体制を必死に維持しようとする非情な権力者の滑稽さが描かれているでござる。

 

この映画は当時大ヒットし、その後多くの忍者映画が作られたでござる。

映画公開時の60年代は日本中で忍者ブームが起こり、司馬遼太郎や山田風太郎などの忍者小説がヒットした時代。

そして小説だけでなく漫画にもブームは広がり、デパートのオモチャ売り場に忍者装束があったくらいである。

漫画家の白土三平も間違いなくこの映画、または原作小説に大きな影響を受けているのは間違いない。

とくに白土作品の「ワタリ」の背景になる設定は、この「忍びの者」の一部がそのまま使われている。

じつはこの映画を観るまで主演の市川雷蔵についてあまりいい印象をもっていなかったけど、この映画ですっかり彼が好きになってしまった。

子供のころテレビでみた彼が演じる”眠り狂四郎”が妙に気持ち悪く、そのイメージが強く頭にこびりついていたんでござる。

もっとも今だから言えるんだけど、その”気持ち悪さ”は彼の役作りから生まれたもので、普通の役者では感じさせることができない領域の演技だったんじゃないかと思う。

ちなみに「忍びの者」の五右衛門はさわやかな好青年でござるよ。

 

モノクロ時代の映画で、ど渋な内容だけど、代表的な忍者映画のひとつなので、是非観てもらいたいでゴザル。

追記:音楽は渡辺宙明先生(特撮ヒーローやマジンガーZなどのサントラで有名)が担当!

では今日はこの辺で。

ドロン!
  

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